サトの旅立ち
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■物語り風ショートストーリー
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■サトの旅立ち
■物語り風ショートストーリー
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■サトの旅立ち
それは、暖かな日差しに包まれた昼下がり。
小鳥達は陽気に唄い、草木は眩しい若葉色をはじいていた。
心地良い春風とともに、少女の声が微かに響く。
『行かなきゃ』
少女の名はサトという。
その澄んだ瞳を、晴れ渡る青空へと向けていた。
そっと振り返り、背後の朽ちかけた小屋を見つめる。
長い間、小さなサトを守ってくれた小屋。
隙間風の酷さに悪態をつくこともあったが、なんだか今はとても愛おしい。
すぅと息を吸い込み、決意とともに言葉を紡いだ。
『さよなら』
前へと向き直り、サトは旅立つ。
もう二度と、あの小屋に帰ることはないだろう。
緑の中に取り残された小屋は、孤独を感じるのだろうか。
サトは旅立つ。
振り返らないと、心に決めて。
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