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雨降りの月夜

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■詩・単発
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■雨降りの月夜
 
 
しとしとと降り続ける雨。
 
窓からそっとのぞくわたし。
 
 
いつから雨が降り始めたのだろう。
 
そんなことを考えながら、そっと雨戸を閉じる。
 
 
それでも室内には雨音がかすかに響く。
 
その音に抱かれながら、わたしは深い眠りにつく。
 
 
月夜は翳り、星の光さえも見えない夜の出来事だった。

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雄犬よ雄犬、何故遠吠える

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■詩・単発
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■雄犬よ雄犬、何故遠吠える
 
 
雄犬よ 雄犬 何故遠吠える
 
白月(はくつき)が翳り、寂しいのか
 
 
 
雄犬よ 雄犬 何故遠吠える
 
夜風が 染み入り 主が恋しいのか
 
 
 
草木は暗闇に沈み 蛙の鳴き声ばかりが 響く
 
響く声音は淡々と ただ遠く どこまでも
 
 
 
雄犬よ 雄犬 何故遠吠える
 
 
 
雄犬よ 雄犬 何故遠吠える

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コモロとシャボン玉

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■物語り風ショートストーリー
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■コモロとシャボン玉
 
 
みどりがみずみずしく弾く、新春の、少し肌寒く、少し暖かな森の中。
 
コモロは小さな、シャボン玉に出会った。
 
それは青々とした緑をより色鮮やかに反射し、
 
きらきらとゆらめいては、
 
また新たな緑を大空の色と重ねて、
 
うっとりと色を変えるのだった。
 
 
 
そばにあった半透明のふきの葉をちぎりとると、
 
コモロは薄汚れた手のひらで、そうっと慎重にシャボン玉を包んだ。
 
 
 
そうっと、そうっと、壊れぬように。
 
 
 
そうしてできたふきの葉を大事そうに両の手で持つと、
 
コモロは家へと走り出した!
 
 
 
風よりも早く。
 
景色は遠のいて。
 
 
 
コモロは勢いよく家のドアを開けると、
 
ダイニングテーブルの上にそっと丸めたふきの葉をおろした。
 
 
そうして今度は慎重に、あの半透明のふきの葉を開きにかかる。
 
 
 
そうっと、そうっと、壊れぬように。
 
 
 
コモロははっとした。
 
シャボン玉は、消えていた。
 
 
 
つかの間、まるで時間が止まったようだった。
 
 
 
コモロは寂しく、クルルと鳴いた。
 
 
 
シャボン玉は消えた。どこかへ消えた。
 
 
 
あの色鮮やかなシャボン玉は、どこへ消えてしまったのだろうか。
 
コモロはちょっと考えたが、全く想像がつかなかった。
 
 
 
コモロは再び、クルルと鳴いた。
 
今度はちょっと、不思議気に。
 
 
 
そうして窓の外の夕暮れに目を向けると、コモロはひとり、
 
夕食の支度を始めるのだった。

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記憶を失った少年

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■物語り風ショートストーリー
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■記憶を失った少年
 
 
心地よい、水のせせらぎで目が覚めた。
ぼうっとする頭を押さえ、あたりを見渡す。
 
ここは、どこだ?
 
小さな滝が目に入った。
 
どうしてここにいる?
 
覚えているのは記憶の断片ばかりで、
重要な、確かな何かを思い出せない。
 
頭をこすりながら、少年は立ち上がる。
体は重く、久々に歩いたような気分だった。
 
「うう・・・」
 
思わずうめきが漏れ、数歩進んだ足が止まる。
 
見上げた空には太陽が高く上がっていて、どうやら今は昼時のようだ、
とぼんやり思った。
 
周囲を見渡し、自分の荷物らしきものを探す。
 
大振りの、リュックが見えた。
 
少年は少し考え、その荷物を漁ることにする。
自分につながる何かが、あるかもしれないと思った。
 
中には手製の書きかけの地図、不思議な文様の象られたコンパスなど、
おおよそ旅人が持っているだろうものがごろごろと入っていて、
自身につながるものは入っていないようだった。
 
諦めよう、そう思ってポケットに手を当てた瞬間、わずかなふくらみがあるのに気付く。
 
少年はそうっと、ポケットの中身を取り出す。
 
それは、しわくちゃになった1枚の写真。
 
二人の少年が写っている。
 
これは、この景色は、この少年たちは。
 
「あぁ…」
 
安どのため息が漏れる。
 
 
思い出した、思い出したよ・・・
 
「ありがとう、ディン・・・」
 

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謌唄いの詩

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■物語り風ショートストーリー
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■謌唄いの詩
 
 
ショーが始まる。
 
舞台袖の小さな楽屋の大鏡の前で、
謌唄いのリオンはそっと姿勢を正した。
 
鏡に映るその姿を、じっと見つめる。
 
遠い異国の色鮮やかな水色のペンダント。
 
古き民族から貰った、新緑のブレスレット。
 
純白のリングに、渡り鳥をかたどったピアス。
 
どれも黄金色の真鍮に、厳かに飾られている。
 
 
これらは全て、彼女が旅の途中で集めてきたものだ。
 
遠く長い、旅の途中で。
 
 
神秘的なものを纏うと、その香りが立つ。
 
そうリオンは感じる。
 
 
目を向ければその時々の様相が脳裏に浮かんでは消え、
異国の風が頬をなでる。
 
彼女はしばし、その余韻に浸る。
 
 
観客席から歓声が響く。
 
ショーが、始まる。
 
 
リオンはすらりと立ち上がると、舞台への階段を登り始める。
 
異国の優美な、香りを漂わせて。

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