忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コモロとシャボン玉

----------------------------------
■物語り風ショートストーリー
----------------------------------

■コモロとシャボン玉
 
 
みどりがみずみずしく弾く、新春の、少し肌寒く、少し暖かな森の中。
 
コモロは小さな、シャボン玉に出会った。
 
それは青々とした緑をより色鮮やかに反射し、
 
きらきらとゆらめいては、
 
また新たな緑を大空の色と重ねて、
 
うっとりと色を変えるのだった。
 
 
 
そばにあった半透明のふきの葉をちぎりとると、
 
コモロは薄汚れた手のひらで、そうっと慎重にシャボン玉を包んだ。
 
 
 
そうっと、そうっと、壊れぬように。
 
 
 
そうしてできたふきの葉を大事そうに両の手で持つと、
 
コモロは家へと走り出した!
 
 
 
風よりも早く。
 
景色は遠のいて。
 
 
 
コモロは勢いよく家のドアを開けると、
 
ダイニングテーブルの上にそっと丸めたふきの葉をおろした。
 
 
そうして今度は慎重に、あの半透明のふきの葉を開きにかかる。
 
 
 
そうっと、そうっと、壊れぬように。
 
 
 
コモロははっとした。
 
シャボン玉は、消えていた。
 
 
 
つかの間、まるで時間が止まったようだった。
 
 
 
コモロは寂しく、クルルと鳴いた。
 
 
 
シャボン玉は消えた。どこかへ消えた。
 
 
 
あの色鮮やかなシャボン玉は、どこへ消えてしまったのだろうか。
 
コモロはちょっと考えたが、全く想像がつかなかった。
 
 
 
コモロは再び、クルルと鳴いた。
 
今度はちょっと、不思議気に。
 
 
 
そうして窓の外の夕暮れに目を向けると、コモロはひとり、
 
夕食の支度を始めるのだった。

拍手

PR

記憶を失った少年

----------------------------------
■物語り風ショートストーリー
----------------------------------

■記憶を失った少年
 
 
心地よい、水のせせらぎで目が覚めた。
ぼうっとする頭を押さえ、あたりを見渡す。
 
ここは、どこだ?
 
小さな滝が目に入った。
 
どうしてここにいる?
 
覚えているのは記憶の断片ばかりで、
重要な、確かな何かを思い出せない。
 
頭をこすりながら、少年は立ち上がる。
体は重く、久々に歩いたような気分だった。
 
「うう・・・」
 
思わずうめきが漏れ、数歩進んだ足が止まる。
 
見上げた空には太陽が高く上がっていて、どうやら今は昼時のようだ、
とぼんやり思った。
 
周囲を見渡し、自分の荷物らしきものを探す。
 
大振りの、リュックが見えた。
 
少年は少し考え、その荷物を漁ることにする。
自分につながる何かが、あるかもしれないと思った。
 
中には手製の書きかけの地図、不思議な文様の象られたコンパスなど、
おおよそ旅人が持っているだろうものがごろごろと入っていて、
自身につながるものは入っていないようだった。
 
諦めよう、そう思ってポケットに手を当てた瞬間、わずかなふくらみがあるのに気付く。
 
少年はそうっと、ポケットの中身を取り出す。
 
それは、しわくちゃになった1枚の写真。
 
二人の少年が写っている。
 
これは、この景色は、この少年たちは。
 
「あぁ…」
 
安どのため息が漏れる。
 
 
思い出した、思い出したよ・・・
 
「ありがとう、ディン・・・」
 

拍手

謌唄いの詩

----------------------------------
■物語り風ショートストーリー
----------------------------------

■謌唄いの詩
 
 
ショーが始まる。
 
舞台袖の小さな楽屋の大鏡の前で、
謌唄いのリオンはそっと姿勢を正した。
 
鏡に映るその姿を、じっと見つめる。
 
遠い異国の色鮮やかな水色のペンダント。
 
古き民族から貰った、新緑のブレスレット。
 
純白のリングに、渡り鳥をかたどったピアス。
 
どれも黄金色の真鍮に、厳かに飾られている。
 
 
これらは全て、彼女が旅の途中で集めてきたものだ。
 
遠く長い、旅の途中で。
 
 
神秘的なものを纏うと、その香りが立つ。
 
そうリオンは感じる。
 
 
目を向ければその時々の様相が脳裏に浮かんでは消え、
異国の風が頬をなでる。
 
彼女はしばし、その余韻に浸る。
 
 
観客席から歓声が響く。
 
ショーが、始まる。
 
 
リオンはすらりと立ち上がると、舞台への階段を登り始める。
 
異国の優美な、香りを漂わせて。

拍手

風に向かう少女

----------------------------------
■物語り風ショートストーリー
----------------------------------

■風に向かう少女
 
 
吹き付ける轟々という音。
 
体が後ろへと追いやられる。
 
立ち向かわなければ。
 
負けてはいけないのだ。
 
息をするのもままならないほどの威圧。
 
掻き分けるように、もがくように、前へ。
 
苦しい。
 
だが立ち向かわなければならない。
 
終わりもわからぬまま、進まなければならない。
 
じりじりと歩を進める。
 
腰を落としてできうる限り地に寄り添う。
 
指先が、足先が痺れる。目元がかすむ。
 
だが、立ち向かわなければならない。
 
轟音は天高くそびえる山の頂上から、少女の地へと響く。
 

拍手

大空の風

----------------------------------
■物語り風ショートストーリー
----------------------------------

■大空の風
 
 
大空を、大地を駆け抜ける風。
その風にさらされる青々とした大地。
その大地の一角の小高い丘の上に、この一帯を総べる遊牧民の、若者の影がふたつ。
 
二人は抜きぬける風の中、ただただ無言で遠方を臨んでいた。
 
やがて一方が口を開く。
 
「本当に行くのか」
 
そう問われた側が、ちらりと一度視線を向け、
 
「ああ」
 
と応えた。
 
「ヨル、みんなが悲しむ」
 
「構わない」
 
即答され、唇を噛む。重苦しげな表情には、わずかに焦りも見て取れた。
 
再び訪れる沈黙。
 
 
ヨルが口を開く。
 
「ずっと、小さい頃からの夢だった」
 
「小さい頃から、外の世界に憧れていた。あの山を越えた先に何が見えるのか、あの川をくだった先に何が待ち受けているのか、知りたくてたまらなかった」
 
一呼吸おいて相手を見据え、言葉を続ける。
 
「それは、ディン。お前が一番よく知ってる」
 
ヨルと目が合う。そらすことが出来なかった。
 
「俺たち二人ならなんだってやってこれた。今までだって、これからも。だからどこにも行く必要なんてない。どこにも行くな」
 
ヨルの瞳に悲しみが浮かぶ。
 
「…すまない」
 
相棒の決意は固いようだ。ディンは苦しながらもそう感じた。
 
俺は、どうすればいい。どうすれば。
 
ヨルがそっと口を開く。
 
「いずれ、ここへ戻ってくるよ」
 
ヨルの優しさからでた言葉だ。だからこそ、信用できなかった。
 
「ヨル…!」
 
「止めないでほしい」
 
ヨルは悲しげに微笑むと、その一歩を踏み出した。
 
 
大地を、風が駆けた。
二人の間を、どこまでも遠くへ。
 
こらえた涙を頬にこぼしながら、ディンは精一杯叫んだ。
 
「また会おう!また会おう、ヨル!」
 
遠くなった背中が、振り返り、手を振った。
ディンはそれにめいいっぱい両手を広げて応えた。
 
 
大地を吹き抜ける風は、何を運んできてくれるのだろうか。
 
ヨルは何を見、聞くのだろうか。
 
それは二人にはまだ分からない。ディンは願う、願わずにはいられなかった。
風が、全てを運んできてくれることを。

拍手

カレンダー

03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

プロフィール

HN:
性別:
女性
自己紹介:
==================
現在イラスト関連のお仕事募集中です!
==================

最新コメント

[07/03 arusora]

最新トラックバック

ブログ内検索

バーコード

●○●○●

クラウドソーシング「ランサーズ」