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そらはかゆい。

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■物語り風ショートストーリー
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■そらはかゆい。
 
 
そらはかゆい。
 
かゆいほどの空。
 
あっけらかんとして、
 
さわやかで。
 
なんだか虐めたくなる。
 
 
 
ぼんやりとそんなことを考えながら、シキは眩しさに目を細めた。
 
多分これから、雨が降るだろう。
 
ざまーみろ、こんな清々しさなんて、長く続かないんだから。
 
 
 
そうして睨むように右手の遠方に首をまわす。
 
左も同じく。
 
前も。
 
 
蝉や小鳥の鳴き声ばかりが相変わらずうるさく耳に届いていた。
 
人は、いないようだ。
 
 
人気のない昼下がりの住宅街の裏道は、シキを孤独の妄想へと引きずり込む。
 
 
 
まるで、あたしだけ、この世界においていかれたみたい。
 
 
 
鮮やかな日照りの、大きな文明を持つ世界の、
 
突然に訪れた空虚。
 
 
 
くうきょ。
 
 
 
風にそよぐ木々の葉のこすれる音。大きく感じる。
 
あたしが素直でいられるのは、この世界の中だけだろう。
 
 
 
瞼を閉じ、そっと開くと、もうそこにはただの現実しかなかった。
 
 
 
飼い犬によく似たおばさんとすれ違う。
 
遅刻常習犯の女子高生に追い越される。
 
 
 
いつの間にか頬を伝っていた汗が、
 
ぱたりと地面にたれた。
 
それに気づいたシキの目に一匹の蟻が地面を這っているのが見えた。
 
嫌悪感をむき出しにして睨み付けると、シキは力を込めて足を振り下ろした!
 
 
 
タン、と、乾いた音が、あたりに響く。
 
 
 
この事に、誰も気づくことはない。
 
住宅街の裏道には、相変わらず生き物たちのさえずりが響いていた。

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遠き日の画家は思った

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■物語り風ショートストーリー
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■遠き日の画家は思った
 
 
筆は重く進まず、彼に灰色の影を落としていた。
 
 
 
雑念を振り払い、明日の青き彩を求めなければ。
 
 
 
輝くのは
銀か
錆か
 
 
 
歳を刻んだ掌が僅かに震えた。
 
ああ、この手は消えてしまうのではないか、
 
もしくは、ひび割れ、岩礁のようにいずれ朽ちるか。
 
 
 
太陽は、傾いた。
 
 
 
アトリエに射す日が朱色を迎えやがて消える頃、
 
再び画家は、筆を取る。

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朝露を集めに

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■物語り風ショートストーリー
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■朝露を集めに
 
 
小さな丘の茶畑に、小さな人影がひとつ。
 
目覚めたての町の まだしんと冷たい朝の片隅に、その丘はあった。
 
 
人影はかじかむ手にふうと息を吹きかけ いそいそと手をこすり合わせる。
 
 
 
白い息が、静かに上空へと消えていく。
 
 
 
人影はふとその空を見つめ、しばしその薄青に見入っていたようだった。
 
だがすぐに下を向くと、そのかじかんだ指先で慎重に茶葉を持ち上げては、
 
その上のわずかな朝露を、せっせと小瓶へと集めていった。
 
 
小瓶には、まだたくさんの余裕があった。
 
たくさん、たくさん集めなくては。
 
 
 
 
 
やがて町に人影が溢れ、街並みに活気が出始めた頃、人影は大通りへ続く緩くくねる小道を帰って行った。
 
首から下げた小瓶に、輝く朝露をいっぱいに詰めて。

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塔を登る少年

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■物語り風ショートストーリー
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■塔を登る少年
 
 
少年が見渡した世界には、いつもひとつの塔があった。
 
どこまでも続く、高くそびえる塔だった。
 
だけどその塔には、なにもなかった。
 
語り継がれるような伝説も、逸話も、残るはずのその歴史さえも。
 
ただ、遠くに行くほどに霞むその世界の中に
 
かろうじて、ぽつりとあるだけだった。
 
 
少年は、ときおり空を仰いでは、深い色をたたえたその瞳で、
 
そっとその塔を見つめていた。
 
 
 
少年はその日、塔を登ることを決意する。
 
 
 
少年は、塔を登る。
 
 
 
塔の頂上はどんなふうだろう。
 
僕は、偉業を達成してみせる
 
そこから見渡す景色はどんなだろう。
 
世界は、もっともっと広いはずだ
 
どこかに、この塔を知る手がかりが残されているだろうか。
 
僕がこの塔の歴史を見つけ、みんなに伝える
 
なにかあるかもしれない。あるはずだ。
 
変えるために、僕はここにきた
 
 
 
無事に、たどりつけるだろうか
 
 
 
人々から関心を集めることもなく、ただ佇むその塔。
 
けれど少年は、その塔に興味をもった。
 
 
 
少年は思った。
 
もし、僕がこの塔を登りきり、なにかを得て、何かを残すことができたら。
 
もし、そんなことができたら。
 
塔は。
 
僕は。
 
 
 
悴んで感覚を失った足がもつれ、少年は現実へと戻される。
 
足元を確認しようとした瞳が、はるか遠くの小さな集落に止まる。
 
 
 
世界を見渡すその塔は、どこまでも高く遠く、ただ、静寂につつまれていた。
 
 

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サトの旅立ち

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■物語り風ショートストーリー
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■サトの旅立ち

それは、暖かな日差しに包まれた昼下がり。
 
小鳥達は陽気に唄い、草木は眩しい若葉色をはじいていた。
 
心地良い春風とともに、少女の声が微かに響く。
 
『行かなきゃ』
 
少女の名はサトという。
 
その澄んだ瞳を、晴れ渡る青空へと向けていた。
 
そっと振り返り、背後の朽ちかけた小屋を見つめる。
 
長い間、小さなサトを守ってくれた小屋。
 
隙間風の酷さに悪態をつくこともあったが、なんだか今はとても愛おしい。
 
すぅと息を吸い込み、決意とともに言葉を紡いだ。
 
『さよなら』
 
前へと向き直り、サトは旅立つ。
 
もう二度と、あの小屋に帰ることはないだろう。
 
緑の中に取り残された小屋は、孤独を感じるのだろうか。
 
サトは旅立つ。
 
振り返らないと、心に決めて。

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